the brain and imagination

「脳と仮想」茂木健一郎 ASIN:4104702013
装幀が良い。導入部やそのほかの章で、繰り返し参照されるサンタクロース存在について質問する少女のエピソードのところから、ふと先日見た「誰も知らない」のワンシーンを思い出す。映画の中で主人公が母親のいなくなった食卓で「サンタクロース、うん、いると思う」と妹らに話すシーンだった。

子供にとって、サンタクロースが切実なのは、それがこの地上のどこにも存在しない仮想だからである。子供だって、サンタクロースが、実際にはいないことなど知っている。
(中略)
子供は、無償の愛を与えてくれる存在にすがってしか生きてはいけない。サンタクロースは、父や、母といった、身近な保護者とは別の世界に住む、それでも自分を思ってくれる人である。
(中略)
サンタクロースの魅力は、プレゼントをもらえるという事よりも、そのような人がこの世に存在するという仮想の中にこそある。それは、分別が付き始めた子供にとってさえめまいがするほど魅力的で、しかし決して完全な形では現実化することのない仮想である。

「脳と仮想」P.38

生きるための切実さが仮想を生み出す、という状況を、あの映画は鮮やかに描いていた。(そして見る人を傷つけた)